桜山大山とウナギ淵の伝説

神奈川県三浦郡葉山町


桜山大山は葉山の長柄から譲られたという逗子桜山の飛び地だが、その森のなかにかつて「ウナギ淵」があり、伝説があった。昔、長柄村の婆さまが、この山に入って川魚を獲っていた。ある日、森戸川の奥の滝で弁当を食べていると、大きなウナギが出てきてその弁当を狙って追いかけてきた。

そこで婆さまが力まかせに斬りつけると大ウナギは動かなくなり、婆さまは一日少しずつ切り裂いて、その身を持ち帰った。そして、八日目に頭だけ残して山を下りようとした時、「婆さん、もう一つ残ってるよ。」とワレ鐘のような大声が響いた。一目散に逃げ帰った婆さまは寝込んでしまったそうな。

『逗子子ども風土記』
(逗子市教育委員会)より要約

追記

1970年代にはまだ滝淵はあり、同書に当時の写真などもあるのだが、その後土砂崩れで淵はなくなってしまったという。ともあれ、これは「タコの足の八本目」などと呼ばれる話と「物言う魚」の話の融合した事例として面白い。

殊に、葉山の海には「七桶」という名の、「タコの足の八本目」の伝をその地名由来とする海辺があり(典型話でもある)、その山側に鰻版の話が語られたというところがまた面白い。

もっともより古い採取例を見ると、物言う魚の話で周辺の地名を説明した、というものであったようでもある(「泣ん面山」)。とするなら、七桶が有名になるに連れてそちらの方向へ話が変わってきた、というように見える。

ただ、「タコの足の八本目」が別系の話型に流れて語られるという事例はあり(例えば八丈島の「タコのムコ殿」)、そもそもそういった変形が起こりやすい話である可能性はある。