七桶

神奈川県三浦郡葉山町


堀内高砂に七桶と云う所がある。其の所は昔欲の深いおばあさんが或る日の事海岸に出ると大だこが居て、其の脚を一本切ると桶一ぱいになったので持って帰った。又翌日行き一本脚を切り、七日間に七桶だけ切って来たが八日目の事、又取りに行くと脚を取る事が出来ないで海に引き込まれて終に殺されてしまった。それ故七桶しか取る事が出来なかったというので七桶と今に云っている。

『葉山町郷土史』高梨炳
(葉山町)より

追記

高砂の浜にばんば磯と南に七桶岩という岩礁があった(今は七桶岩は防波堤となって消えた)。ともに上の伝説による名であるという。漁師たちはばんば磯を重視していて、決して船出にその磯に船を当ててはいけないとしていたという。当てたらその日の漁を休む程だったそうな。

三浦にはこの「タコの足の八本目」の話が多く、小網代、宮川桶島、長沢などにもある。その中でもここ葉山七桶はそれらを代表するものといえる。桶島も桶だが、長沢でも七桶といい(「七桶の里」)、そこは共通するモチーフであるようだ。

なお、面白いことに、東の山中に入ったところで、大鰻の物言う魚の怪が「タコの足の八本目」の筋を取り入れて語られている(「桜山大山とウナギ淵の伝説」)。どこに通ずるものがあるのか、考えどころだろう。