タコのムコ殿

東京都八丈島八丈町


昔あるメナラベ(娘)のところに、毎日磯籠いっぱいに魚を獲ってくる若者がいた。若者の素性は知れなかったが、その漁の腕に惚れ込みムコになるよう頼むと、若者はすぐに承諾した。しかし、このムコは皆がまだ寝ている七ツ刻(午前四時)に起き出して漁に行くので、嫁は無理をしているのじゃないかと心配になった。

止めても平気だというムコだったが、次第に顔色が悪くなり、ある朝嫁は心配で後をつけた。そして嫁は、磯でムコの姿が大ダコに変わり、一本だけの足を海に入れて、魚をおびき寄せているのを見たのだった。嫁は仰天して悲鳴を上げ、大ダコは嫁を睨むと海に姿を消してしまった。

ムコは大ダコの化物で、嫁のために自分の足をエサに魚を獲っていたのだった。それで徐々に足が食いちぎられていき、一本足になってしまっていたのだ。その後、大ダコのムコが嫁のところへ帰ってくることはなかったそうな。

『新版 日本の民話40 八丈島の民話』
浅沼良次(未來社)より要約

追記

八丈島のくびれの東側、神湊港あたり三根の話。一読して思うように、これは「タコの足の八本目」の要素を含む話であり(典型話は「七桶」など)、それが蛸聟の話になっている興味深い事例だ。

そもそも「タコの足の八本目」には救荒食の伝である側面がある(「タコ穴」)。そういう意味では、この蛸聟の話も、その線上に乗りそうではある。