御門、天の下の美人

神奈川県秦野市


今の八坂神社で、川普請の前夜の打ち合わせの酒の席に、何処からか気高い美人が現れた。彼女は、お宮の下の穴はよけて掃除をして下さい、と頼み、麦飯を食べて帰った。

翌日川普請が始まったが、天の下の川の流れが打ち当る曲がり角は水が深く淀んでいて、ハヤ・ウグイ・ウナギ等色々の魚が沢山いて、捕れた。皆は大騒ぎで、とりわけ大きなウナギまで捕えられた。

ところが、このウナギを切り開くと、腹の中から麦飯が出てきて、一同は驚いた。昨夜の美人はウナギの化身だったのか、申し訳がなかった、と一同は顔を見合わせ、このウナギも喉を通らなかったという。(東道長寿会 梅原俊)

『秦野むかしがたり』
(秦野市老人クラブ連合会)より要約

追記

八坂神社は御門の社のことで、天の下(てんのした)は、天王下のことと思われ、すなわち干天に雨乞いに行く蛇がいたという「権現さまへお使いに」の話と同じ淵のこととなる。

その蛇の主の話と並んで、このような物食う魚の型の鰻の主の話があったわけだ。秦野では、西のほうの四十八瀬川にも、蛇と鰻双方の主が語られる事例がある(「雨の主・蛇」など)。

また、御門からほど近い曾屋地区には鰻の禁忌があったらしい(「うなぎの目はこんな目に」)。虚空蔵信仰や三島信仰とは別に、素朴なものであったと思われるが、その影響もあるかもしれない。