うなぎの目はこんな目に

神奈川県秦野市


曾屋村を南北に二分して流れるきれいな小川があり、村人の生活を支えていた。水源は現在の曾屋神社の所の井明神様で、皆はお恵みの水と尊んでいた。この地区は、いくら井戸を掘っても水が出ない土地なので、井明神は篤く祀られていた。

そして、その水に住む神様のうなぎだから、食うと目がつぶれる、たたりがあるといって、うなぎをとる人がなかった。それでこの川のうなぎたちはのびのび育っていたが、あるとき、俺の目と神様の力と比べてやる、という人が現れた。

その人は人の止めるのも聞かず、水に入り、大きなうなぎを何匹もつかまえて、焼いては食べ、炊いては食べした。それでも何事も起こらなかったので、俺の目は神様より強いと言いふらし、他の人もうなぎをとって食うようになったので、やがて小川のうなぎは姿を消してしまったそうな。(本町 遠藤モト)

『丹沢山麓 秦野の民話 下巻』岩田達治
(秦野市教育委員会)より要約

追記

今も曾屋神社の脇には井明神さんの石祠が立派に構えられ、水が流れている。川のほうはもう見えないが、すぐ隣の字も水神町といい、全国でも早い時期に近代水道が配備され始めた源でもある。周辺に虚空蔵信仰があったとか、三島さんがあるということはなく、今のところ素朴に水の神の使いの鰻、という信仰のあった事例、と見ている。

秦野盆地でもまま鰻は滝淵の主となる。歩いても15分ほど、近く御門の天王さんの下の淵には物食う魚の鰻の話があった(「御門、天の下の美人」)。併せ蛇が主だというところでもあるが、鰻と蛇がままかぶる土地柄でもある。

ところで、これは一方で、禁忌が破れた話でもある。各地の例では余所者がやってきて地元民が禁じていたものを食べて……となることが多い(「鰻お小屋」など)。この話では村の変わり者が挑んだ、という筋だが、土地の性質が表れているところかもしれない。