○○味噌づけ

神奈川県秦野市


ある夕、旅の六部が一夜の宿を願い、主人は快く迎えた。そのうちに主人は秦野のよもやま話に花を咲かせ六部をもてなし、最後に秦野で一番うまいものを出そう、と物置から何かの味噌漬けを酒と共に用意した。その味噌漬けは確かに美味しく、六部はうまいうまいと皆平らげ、満腹になって眠った。

夜、六部は喉が乾いて起きたが、どうにも夕食の味噌漬けの味が頭から離れない。とうとう我慢できなくなり、ひそかに物置に入ると、味噌の匂いのする桶を探しあて、これだとばかりにまた味噌漬けを食ってしまった。

翌朝、起きてこない六部を心配した主人が部屋を覗き、やったな、と驚いた。六部の顔は一斗樽のように膨らみ、うんうん唸って苦しんでいたのだ。あの味噌漬けは黒蛇(山かがしの年経たもの)の味噌漬けで、二十年以上経たないものを食べると体がどぶくれてしまうのだった。六部が夜中に盗み食いしたものは、やっと三年目のものであったのだそうな。(本町 遠藤藤吉)

『丹沢山麓 秦野の民話 上巻』岩田達治
(秦野市教育委員会)より要約

追記

蛇の味噌漬けをやたらに食べると大変なことになってしまう、という話。ここでは顔が膨れるくらいだが、よく知られた出羽置賜の話などでは、これを食べた女房は蛇になってしまう(「おりや峠の蛇」)。

秦野の話では、怪異というのでもなく、実際にそういった蛇の味噌漬けがあったのじゃないかという風であり、救荒食を食べぬように語られた話という感じがする。

また、蛇には妙な旨味があるのだとするイメージにつながる話でもある(「味の素に蛇を買ってもらう」)。もし、救荒食の話であるのが本来だったら、旨味の話が後だろう。