五月節供としょうぶ

神奈川県茅ヶ崎市


実直に働いている若者のところに、奥さんにしてくれと蛇が化けてやってきた。若者は自分が食うのに精いっぱいだ、飯食わなくてもよいならもらってもよい、といい、女は食わなくてもいいといって家に来た。

それで若者はいい嫁を貰ったと友達に自慢したが、そんな馬鹿な話があるか、こっそり様子を見てみろ、と言われた。それでそのようにすると、嫁はおにぎりを作ってみんな頭に放り込んでしまうのだった。

これが気付かれ、若者は大蛇の嫁に追われ、池の端に追い詰められ、菖蒲と蓬の茂みに隠れた。すると、蛇は菖蒲と蓬が嫌いなので、入ってくることができずに若者は助かった。これから五月の節供には菖蒲と蓬を魔除けにするのだ。(下寺尾 男 明治37年生)

『茅ヶ崎の伝説』
郷土史研究グループ「あしかび」
(茅ヶ崎市教育委員会)より要約

追記

五月の節句に菖蒲と蓬を魔除けにする由来は、上のように人の男が蛇の嫁から逃げる話と、人の女が蛇聟に通われはらんだ蛇の子を菖蒲湯などで堕ろす話の双方がある。

面白いのは、ここ茅ヶ崎市の下寺尾でその両方の話が得られたことだ。語っている人は同年代で女の人だ(「しょうぶ湯」)。男女で語る話に差がある、ということはあるだろうか。

上の話は所謂食わず女房で、その正体は鬼・山姥であったり大蜘蛛であったり様々で、蛇聟による菖蒲湯の由来と比べると蛇と確定するものではない。

ゆえに、その正体が蛇であるという話はみな連絡して集めていくべきだろう。ひとまず野州のほうにこの話がいくつか見える(「食わず女房と軒菖蒲」)。

なお、このあたりではまたすぐ隣の堤で、今度は麦焦がしで蛇を退治するという風もあり(「五月節供にろくしょうをまくわけ」)、蛇除けには随分と気を使った土地のようだ。