五月節供にろくしょうをまくわけ

神奈川県茅ヶ崎市


五月の節供には、しょうぶを屋根にさすのに加え、家の回りにろくしょうをこがすといって、大麦の粉を焦がしたのを撒いた。蛇はこれを食うと死ぬ。蛇の魔除けなのだ。

昔、人を食う蛇がいて、退治に難儀した。三人目に挑む人が、いく日かかるかわからんから、ろくしょうを水でといて食えるように持って退治に出た。

大蛇は硬くて刀も通らず、その人が木に登って逃げたとき、もっていたろくしょうが落ちて、この人を呑もうとしていた蛇の大口に入った。これで大蛇は口が塞がらなくなり、苦しがって死んだのだそうな。それで、五月の節供にろくしょうを撒くようになった。(堤 男 明治31年生)

『茅ヶ崎の伝説』
郷土史研究グループ「あしかび」
(茅ヶ崎市教育委員会)より要約

追記

「ろくしょう」とは聞かぬ名だが、麦こがし(はったい粉、香煎)のことだろう。麦こがしを魔除けに撒くということ自体は各地にある。それが大蛇退治の由来を持つというと限られてくるが。土地ではこの大蛇が、呑む口に甘いものはいらぬ、といったというオチの笑い話にもなっていたようだ。

同地域では、隣の下寺尾で五月の節供の菖蒲の由来がよく語られ(「五月節供としょうぶ」)、加えてこのろくしょうの魔除けもあることになる。蛇除けに随分気を使った土地のようだ。

しかし、麦こがしということになると、秩父の両神の方にはこの饅頭が好きな大蛇がいたという話もある(「出原のこうせんまんじゅうと大蛇」)。所違えばということではあるが、性質を一辺倒に捉えないよう注意はしたい。