龍が川の水を飲んでいた話

神奈川県藤沢市


昔、油の行商をしていた爺さんが朝でかけ、柏尾川のところまでくると、龍が道路を跨いで、川へ頭を突っ込んで水を飲んでいた。龍は龍灯松へ尾の方を三まわり巻きつけていたという。爺さんはそれを見て驚いて家に戻ったが、病んでしまい、とうとう亡くなってしまった。

龍灯松は笠松ともいい、笠松大権現という石碑があった。天保八年だったか。龍が水を飲んだのはザアザアというところだが、こんなことがあって、龍がまた人に迷惑をかけないよう、龍神を祀ったのが笠松大権現なのだろう。(宮前 男 明治19年生・宮前 男 明治40年生)

『藤沢の民話 第一集』
(藤沢市教育文化研究所)より要約

追記

三つの話があるうちの二つをまとめた。ここにまとめた話をした方の親戚のご先祖が件のお爺さんであったというが、その直系の家の話は少し雰囲気が違うのでまた別に引く(「水を飲んだ大蛇」)。

場所は今の古館橋が100mほど下流にあったころ、そこに「ザアザア」という柏尾川の段差があり、その脇に龍灯松のある龍灯山があったのだという。山は削られ松もないが、今もそこ(左岸側)の木立は古館の森というそうな。

この話の面白いところは、龍が尾を松に巻きつけたまま水を飲んでいるところ。松と竜蛇の同一性が非常に高い。松に竜蛇が登って灯をともすというより、松が竜蛇なのだ。笠松権現と龍神を祀った、というところにもそれは表れている。

時折、樹木が竜蛇そのものとなる話はある(「しばられ松」など参照)。樹木に棲みついた竜蛇の話は多いが、それらの中にももとは樹木が竜蛇であるという話があるものと思う。注意深く見たい話だ。