しばられ松
神奈川県川崎市高津区
しばられ松は、行き倒れになった六部を葬った場所だという。
松が夜になると、蛇になってそこいらの農作物を荒らしまわるので、えらい坊さんが松をしばったので、それから農作物は荒らされなくなった。
縛られた松だからしばられ松という。
高津区向ヶ丘
話者 宮前区神木本町 猿渡豊作
採集 昭和六三年一月
『川崎物語集 巻三』川崎の民話調査団
(川崎市市民ミュージアム)より
追記
この松は、六部にちなみ聖松ともいい、子どもの咳を治す願掛けが行われる松であったという(同書類話)。その願掛けの方法が松を縛ることであったことから、逆にこの松は動き出すのだ、という話が生まれてきた、ということらしい。
ともあれ、松に棲みついた大蛇が、とか、近くの主が松に登って、とかではなく、生えている松が直接蛇となっているのではある。上の事情から木の精を蛇とした話とはいえないが、その感覚なくしては生まれないものではあるだろう。