龍が川の水を飲んでいた話

原文:神奈川県藤沢市


むかしのことでね、うちの親戚ですけどね。そこのじいさんが、農家をやりながら油の行商をしていた。

それでね、町屋へ商いに行くのに、朝でかけたんです。そして、柏尾川のところまで来ると、龍が道路をまたいで、川へ頭を突っこんで水を飲んでいた。それを見てびっくりして、そこからすぐに家へもどって来て寝ついちまった。

結局、それが原因で病気になって、治らないで死んでしまった、といういい伝えがあるんです。

龍は、龍灯松へ尾の方を三まわり巻きつけて、それで、道路を越して川へ首を穴っこんで水を飲んでいた、なんてことも聞いたけど。

まあ常識で考えて、道路を龍が横断しているのを見れば、びっくりしてしまって、尾を三まわり巻きつけていたかなんて、見る余裕はないですね。

そのじいさんというのは、どのぐらい前の人だったか、わからないですね。(宮前 広田忠蔵氏 明治19年生・昭和47年9月)

龍灯松を笠松ともいってたんですね。

龍灯松には、笠松大権現という石碑がありました。天保八年だったと思います。

これは、林孫次郎さんの先祖で、油差をしていた人が、龍を見てびっくりし、それが原因でなくなったので、その後、つくったんでしょうね。

笠松に龍が尾を三巻きして、柏尾川の通称ザアザアとよぶところで、水を飲んでいるのを見かけたものだから驚いてしまい、病気になっちゃったんですね。それで、とうとう、なくなってしまった。

そこでね、龍が、また、人に迷惑をかけないように、龍神をまつったものが、あの笠松大権現なんでしょうね。(宮前 広田三郎氏 明治40年生・昭和47年4月)

『藤沢の民話 第一集』
(藤沢市教育文化研究所)より

追記