ザアザア

神奈川県藤沢市


大正末期からの改修で、柏尾川の古館橋は百メートルくらい上流に移った。(移る前の)左岸の木立を古館の森というが、その下は岩が出ていて、一メートル以上の落差があって、川の水音がザアザアと遠くまで聞こえた。

それでそこをザアザアと呼んでいたが、龍灯松に尾を巻きつけた龍が川の水を飲んでいたというのが、そのザアザアという場所だった。龍灯松は今は削り取られた龍灯山という川に突き出た山にあった。(宮前 男 明治40年生・他)

『藤沢の民話 第一集』
(藤沢市教育文化研究所)より要約

追記

「龍が川の水を飲んでいた話」の現場の話。今も左岸側には古館の森とある木立がある。とどろき淵とか、どうめき淵とか川音の甚だしいところを呼ぶ名があるが、同様するものだろう。どこも竜蛇や河童の話がよく語られる場所である(ザアザアには「河童のまな板」なる岩もあったそうな)。

ところで、話に出てくる古館橋という橋が少し変わった橋であったようで、気になる。一名鷹匠橋といい、江戸時代に土地の豪農の家にやってくる鷹匠が必ず一休みする橋であったそうで、その鷹匠の来る毎に架け替えられた橋であったという(同資料「古館橋と鷹匠のこと」)。

鷹匠が来た豪農の末の家は弥勒寺のほうにまだあり、記憶が語られている。鷹に何かあったらお手打ちになるやもしれず、と大変な気苦労であったそうな。このような橋の特殊性がいろいろの話を語らせたのかもしれない。

なお、直接関係するかどうかわからないが、古館というのは、あの鎌倉権五郎景政の館のことであり、その末裔の家々があったことをいう名である。宮前とは景政を祀る御霊神社の宮前だ。ここは、その系統の話の本貫地でもある(「片目のどじょう」なども参照)。