鎌取池

神奈川県横浜市瀬谷区


阿久和川を遡ったところに、明治中ごろまで、東西四一メートルほど、南北二九九メートルほどの鎌取池という池があった。当時は湛々と水がみなぎり、周りは鬱蒼として昼でも梟が鳴くような淋しいところであった。

池には三十メートルもある大蛇の主がいたそうな。ある日、住民が草刈に行くと、離れた松の木のもとに美しい乙女がいた。見惚れていると、乙女は池の彼方に消えたが、住民が我に返ると手に持っていた鎌がなくなっており、池のどこかで何かが水を呑む音が大きく響いたという。(昔の瀬谷)

『戸塚郷土誌』戸塚区郷土誌編さん委員会
(戸塚区観光協会)より要約

追記

三ツ境駅の南側、今段々に駐車場などあるあたりが鎌取池だった。段々の高低差なのに池かと思うようなところだが、三段の堰のある、灌漑用の溜池だったという。

この様な事をする水場の主の娘の話は(より多く語られる型はヨキ淵といって手斧・鉈を取る「まさかりが淵」など)、基本的には「鉄を嫌う竜蛇」が、ゆえに金物を隠す、という話であったと思われる。

三ツ境の話は、今様には「あまり草を刈られては、自分たちの住むところがなくなってしまう」などと乙女が言ったともいい、自然の主の領分を侵す話のほうに振れているが(「矢川弁財天」など参照)、言われてみれば通底するところがあるのかもしれない。

なお、池の周辺は往時は阿久和町といったが、白姫神社が祀られていた(現在は三ツ境駅東側に遷っている)。養蚕守護の「しらかみ」様であったと思われ、源流という点と併せると、座間小池の「弁財天社」に近しいところがあったのでは、とも思われる。

刃物をとる水の主は多く機織娘であるものなので、そこは併せ考えたい。実際、鎌取池の別伝として、鎌を取るのが池の蜘蛛である、という話がある(「鎌取池の蜘蛛」)。