ミウシュのタコ

長崎県平戸市


宮の浦の北の荒磯にミウシュ(美世女)という所があり、そこのタコは食べてはならないという。昔、野子に母と娘が二人で暮らしていた。娘の名をミウシュといった。ある日娘は海岸で一匹の大ダコを見つけ、母に食べさせてやりたいと思い、タコに足を一本くれと頼んだ。

そして毎日一本ずつタコの足を貰いに出かけるようになった。タコは、最後の一本の足だけは残してくれ、と頼むのだが、娘は構わず最後の足まで取ろうとした。これに大ダコは怒り、一本の足で娘を殺してしまったという。この荒磯には今もタコが多いが、誰も取りに行かない。

『平戸市史 民俗編』
平戸市史編さん委員会
(平戸市)より要約

追記

「タコの足の八本目」のお話。多く欲にかられて足を取り続ける人の末路が語られるものだが、ここでは孝行娘の話となっている。南房総には孝行息子と内陸の章魚の話があるが(「章魚ヶ渕の伝説」)。

そもそもこの伝説群に関しては、飢饉の時の備えに、母から娘へ秘密に「タコ穴」が相続される、という具体的な習俗があったことを反映しているのじゃないか、という線がある。娘が母に食べさせようとした、という筋にはそれを思わせるものがあるだろう。

もうひとつ、この伝説が具体的な漁撈習俗を反映するのじゃないかと思わせる話がまた南西諸島のほうに見える。寄り付くタコは七軒で分け合うものだった、というのだ(「海の寄り物」)。併せて参照されたい。