海の寄り物

鹿児島県大島郡龍郷町


クバの浦は、波静な龍郷湾の深い入り江の奥にあるので大物の海の幸は漂着しないが、時にはトホ(タコ)が波打ち際に寄っていて拾うことがある。こんなときには、一人占めにして食べないで、隣近所に配るものだった。他人を喜ばすと、また海の幸にありつけるという信仰があった。こんなときには海の幸をヒロユン(拾う)といい、それを配ることをハギュン(配る)といった。

タコが寄って拾われるのは、四月から五月のころである。マダコである。どういうわけかタコの血が動いて生きているのに、動きが不活発で、浜を行く人に容易に捕獲されるという。「ナナクィブル、ユルクディ、カムィ(七軒の人たちが喜んで食べるように)」という共通観念が村人たちにはあり、拾ったタコは隣近所の人たちが分けあって食べるものだった。

『龍郷町誌 民俗編』
龍郷町誌民俗編編さん委員会
(龍郷町教育委員会)より

追記

大蛸が磯に流れ着いて、日に一本足を取っていき、最後の八本目の足に巻かれて海に引き込まれてしまう、という昔話の「タコの足の八本目」と関係するのではないかと考えている奄美の習俗。「タコの足の八本目」の話は、日本海側にも太平洋側にも分布する。

特に「一人占めしてはならない」というのは、仏の教え、欲の戒めという感じで語られることが多いのだが、この奄美の例を見ると、より古くからの富を分け合う習俗が根底にあるのだろうと思われる。

一方、宮本常一は母から娘へ「タコ穴」が秘密のうちに相続される習俗があったことを報告しており、これもまた「タコの足の八本目」伝説に関係するのじゃないかと考えている。