タコ穴

山形県酒田市


たとえば山形県に飛島という島があります。この飛島は、海岸中の岩礁にたくさん穴があいています。その穴へたいていタコが入っている。そのタコ穴というのはみな個人もちなのです。個人もちといっても、大体これは女のほうがもつことになっています。やはり娘が嫁にいくときには、親がタコ穴を二つなり三つなりもたせてやるわけです。そうすると、その娘はそのタコ穴を人に気づかれないように覚えていて、そしてとりにいくのも、人が見ているときにとると場所を知られてしまいますから、見ていないときにその場所へ行ってタコをとってくる。(「日本人と食べ物」)

『塩の道』宮本常一
(講談社学術文庫)より

追記

この話は内地の農村では母から娘へトチの木などが相続され、海ではタコ穴だった、という話。そうやって日本人は食糧難に対して細やかな対応をして来たのだ、という報告。

私は、大蛸が磯に流れ着いて、日に一本足を取っていった婆などが、最後の八本目の足に巻かれて海に引き込まれてしまう、という昔話の「タコの足の八本目」と関係するのではないかと考えている(典型話は「七桶」など)。