蛇橋

神奈川県足柄上郡中井町


立沢という昼も暗い沢に、丸太の橋が架かっていて、土地の人は蛇橋(じゃばし)と呼んでいる。

昔、小田原藩の侍が五分一に調査に来て、沢を渡ろうとしたが、大雨で水が出て渡れなかった。すると、そこに太い丸太が流れて来て橋のようになったので、これ幸いと渡った。ところが、振り返ると、その丸太がズルズルと動いている。それは丸太ではなく大蛇であったのだそうな。

橋は今もあるが、土地の古老は色々他にも大蛇の話をしていた。遅くなると蛇(じゃ)が走るといって、畑仕事を早くしまったものだった。

(蛇の橋の話部分は『広報なかい』第一九〇号「なかいむかしばなし」による)

『中井町誌』中井町誌編纂委員会
(中井町)より要約

追記

おなじみの蛇の橋の話。件の地の大蛇は、他に人を巻いた話がよく語られたり、里娘を呑もうとしたりしているので(「お神酒松」)、特に人に協力的というわけでもない。

蛇が人を渡す話には、その人が高貴な人である、という特徴を持つものがままあるが(頼朝を渡した「蛇が橋」など)、この立沢の話ではその色合いも薄い。

思うに、これは「じゃばし」の名ありきの話なのではないか。おそらく、土砂崩れなど蛇抜けを表す「じゃばしり(蛇走り)」があった場所、という名があり、蛇橋の話を呼んだものと思う。そういう事例は結構あるかもしれない。