シャチガミ

神奈川県中郡大磯町


国府新宿の海際にプリンスホテルができたが、そこには諏訪神社があり、お諏訪の松と呼ばれる松があった。漁師はそれを海上からの目印としたが、諏訪社の脇に竜宮さんがあったので、シャチガミの松とも呼んだ。

大磯の港には龍神さんがあるが、竜宮祭(リュウグンマチ)の日には八大竜王の掛け軸の下に、御神体を据え参拝する。その御神体がシャチガミである。シャチガミはとぐろを巻き鎌首をもたげてミイラと化している海蛇で、セグロウミヘビである。背中が黒く腹部は黄色味を帯びていて、尾は平たい。

『一旦力・セギルベエ!』
西山敏夫(夢工房)より要約

追記

筆者は代々二宮町の海に漁をした家の人で、二宮の漁にまつわるいろいろの話をまとめられたが、そこに大磯のシャチガミの話が載っている。大磯の漁師には、蛇が豊漁をもたらすとする感覚があった(「ボラのヨーバミ」など)。

大磯港のシャチガミの姿は『オタマシ・神のすがた』(大磯町郷土資料館)というパンフレットに見えるが、確かに上に書かれた通りのもので、つまり出雲の竜蛇様である。西山も、続いて竜蛇様のことを紹介している。

しかし、大磯のさらに東隣、平塚市のほうにも「シャチ」の話があるが、これは必ずしもその剥製ありき、というばかりではないようである。そもそもまれな海蛇に注目する風はあったのじゃないか。

一方、筆者の二宮町のほうはというと、そちらにはこういった感覚はなかったか失われていたかしたらしい。上の話も現役を引退した後調べたら、という風だ。実際に自身が海蛇と遭遇した話としては、何だかわからないものがあがって騒ぎになって、結局小学校に持ち込んだとある。

二宮にもシャチガミのイメージがあったらそうはならないだろう。二宮の梅沢のほうの竜宮さんの話としても、海亀と深く関係することが語られ、蛇というのはなかった(「竜宮社」)。