シャチ

神奈川県平塚市


実態はわからないが、海上でシャチ(サチガメ)に出会うことも吉で、拾い上げて持ち帰り家で祀るとされている。シャチというのは茶褐色で尾が平べったく海蛇のような生き物だという。実際にこれを見つけて取り、家のエビス様に供えて祭り、その後しばらくして鬼子母神に納めて八大龍王と一緒に祀ってもらったという人がいる。また、別の人は不漁続きのときに旅のロクブ(六部)を泊めたら、その後は大漁になった。船霊様のところを見たら不思議なものが丸まっていたので、祈禱などをする人にみてもらったらシャチガミだといわれた。蛇のように尻尾が平べったく頭に宝珠が二つある生き物で、縁起ものとして飼い続け、死んでしまった後も供養を続けているという。

『平塚市史12 別編 民俗』
(平塚市)より

追記

平塚市の昔の須賀の話。かつては相模川右岸河口部を広く須賀といった。近世に江戸への荷揚げの要所として栄えた浜で、逆にいうとより古い歴史があるという面は小さい。そこで、このような海蛇様のものが珍重されたというのだ。さちかみ(幸神)が元の意か。

これは西隣の大磯の海にもそのようなものがあって、大磯港の八大竜王(かつての竜宮社数社をまとめたもの)の御神体は、出雲の竜蛇さんを思わせる「とぐろを巻かせた海蛇のはく製」だった(「シャチガミ」)。須賀の「しゃち」も通じるものだろう。

しかし、宮城は松島の南のほう(七ヶ浜町)にも、「シャジホコ」という蛇状の幸をもたらす存在が珍重されたという話がある。これは竜蛇さんとはまた趣の違う扱いなので、近世あたりに出雲の竜蛇さんが東に紹介された、というばかりでもないかもしれない。