餌に混ざっていた蛇

神奈川県中郡大磯町


カツオを釣りに行くのに、いつものように餌のイワシを買って、漁に出た。餌の入っているカメを見たら大蛇が混ざっていた。あとで聞いたら、漁師に追われた大蛇が餌の中に混ざっていたのだというが、その船はそのときに大漁だったという(要旨)(男、明治三十八年生、大磯)。

『大磯町史8 別編 民俗』
(大磯町)より

追記

蛇のことを漁師は船上で「ながもの」と忌んで呼ぶ。そういうのを沖言葉などというが、大概は船にとって蛇は良くないとされるもので(「蛇と船」)、「へび」と直接その名を呼ぶことすら禁忌とされるものだ。

これが、この話では大蛇が船上にいたことが大漁をもたらしたのだ、といっている。かろうじて、大蛇が他の漁師に追われて、とあるところから報恩の話ともとれ、やはり「すくった」蛇に漁をもたらされたという話がある(「天城山のヌシをすくう」)。

しかし、大磯では(海)蛇そのものを神体(しゃちがみ)とする竜宮(りゅうごん)を漁業の神とし信仰した、ということがある(「シャチガミ」)。そちらの線を見ていくと、単なる助けた蛇の恩返しだ、とはいえなくなるだろう。