天城山のヌシをすくう

神奈川県中郡大磯町


小田原の漁船の話で、その船だけに漁があったことがある。あるとき、ベタ凪でまったく魚がとれなかった日、その船が帰ろうとすると、シイラのようで非常に眼の大きな妙な魚が泳いでいたので、すくってイケスに生かしておいた。

これが帰ると魚だったのが大蛇になっており、オガミヤに見てもらうと天城山のヌシの一匹が大雨で流れ出したものだという。魚に化けたが目は隠せなかったのだ。神主が拝むと樽におとなしく移り、天城に帰って以来、この船には漁があるのだという。

『大磯町史8 別編 民俗』
(大磯町)より要約

追記

大磯で得られた話ではあるが、小田原の漁船の話であるので、大磯の一連の蛇と豊漁の話(「ボラのヨーバミ」など)の参考として引く。もとより魚に化けるなどただの蛇ではないが、生かして天城山に帰したことの報恩という色合いも強い。

ただ、他の話と違う点としては「山の主」というところが際立っているところだ。漁師にとって山は海上の位置を知るための「山アテ」を行う重要な指標であった。そのようなところが反映されている話かもしれない。