蛇と船

東京都大田区


蛇は泳ぐので、多摩川に置いてある船に乗り込んできてしまうものだった。船の艫のイザ板というのをまくると、寝床がしまってあるのだが、そこに蛇が入っているのだという。

寝ようと思って寝床を出したら、蛇がとぐろを巻いてるのは、気持ち良かぁない。昔の船は木だからどっからでも蛇は入ってこれた。蛇が船に上がるのは縁起がよくない。船にはよくない。青大将だから何もしないけれど。

『口承文芸(昔話・世間話・伝説)』
(大田区教育委員会)より要約

追記

六郷の八幡塚のあたりでの話。六郷に限らず、各地の漁師が蛇を忌んで「長虫・ながもの」などと忌み名(沖言葉)で船上呼んだという。蛇と直に呼ぶだけで船に禍がある、漁がなくなるとされた。船霊様は女なので嫌うのだ、などという。

しかし一方で、海蛇上のものを豊漁をもたらす存在として尊ぶ、祀るということがある(「シャチ」)。蛇の両義性がよく表れるところで、その相反する意は、と問うのは大変重要だ。