なんばの小池

神奈川県高座郡寒川町


寒川神社本殿裏に、なんばの小池という神泉池がある。旱魃の時は、池の泥を浚えば必ず雨が降るといったが、潤雨ならず大雨霖雨となるゆえ、容易に泥土を動かさなかったそうな。

追儺祭の時は、ドーンドーン(太鼓)「ナーンバーノコーイケー」という具合に大声を張り上げながら、社殿を右回りに三周する。この「なんばの小池」という言葉は、全行程で三十三回唱えることとなっている。(小菅信雄・寒川神社副士)

『さむ川 その昔を語る 第三集』
(寒川町郷土研究会)より要約

追記

追儺式全体を記した手記から、難波の小池に関する部分を要約した。寒川神社の副士を代々お勤めの家の方の手記だが、当時追儺には宮司は出ず、副士主導による儀式だったという。

相州一宮・寒川神社の後本殿裏にはこの難波の小池があり、日頃は本殿正式参拝をした人のみ目にすることができる。寒川神社の神祀りの中核であろうといい、ここから不明瞭なこの神社の神格を水神と見る向きも強い。

浚えば雨が降るというのだから、そこに竜蛇が住まうという感覚があるに相違ないが(近くでは「入谷の雨乞い」など)、なぜ「なんば」の名なのかというところからしても、はっきりした話は聞かれない。

そこに、この追儺の儀式もあるのだ。池を回るわけではないが、「三周(三周半)する」というのはそこに竜蛇を顕現させる常套の方法だ(「三回まわる」など)。各地で、竜蛇の棲むという池沼を(ケンケンなどで)三回ほど廻るとその主が見えるという。

なぜそれを追儺の儀式として行うのかは定かではないが、寒川神社の神格を考える上で見逃すことのできない一幕であるといえる。