竜灯の松

神奈川県海老名市


元禄十二年に移築された観音様の清水寺は水堂と呼ばれた水の寺で、明治の中ごろまで、仁王門前には素晴らしい大松が聳え立っていた。東南方に田に水を引くための目久尻川の堰があり、「お滝」と呼ばれたが、その茂みには一匹の竜が住んでいた。この竜が清水寺の大松に通い、梢高く上って竜灯をかかげたという。

竜はこの明かりによって、人々が観音様の法力を信じるよう願っていたのだ。ある年、南湖の漁師が海上時化にあい、夜になって方向もわからなくなってしまった。すると、その漁師が日頃信心する水堂の観音様が夢に現れ、海難を救わんと告げたという。漁師が目を覚ますと竜灯の松の明かりが見え、漕ぎ帰ることができたそうな。

漁師はますます信仰を厚くし、子孫は今でも献灯料を喜捨している。大松はなくなったが、境内には「里うとう松」と刻まれた享保十年の碑があり、在りし日の霊徳を偲ぶことができる。

『海老名むかしばなし 第1集』
(海老名市秘書広報課)より要約

追記

お滝は望地にあるが、その南、綾瀬市になる小園のほうでは、堰の下には江の島に続く穴があって大蛇がいたと語っていた(「お瀧の堰」)。そちらでもこの清水寺(せいすいじ)の竜灯(竜頭)の松の話はあった。

南湖とは茅ヶ崎市になる相模湾岸だが、直線距離でも四里にもなり、はたしてそこから目印になった話といえるのかは難しい(実際に目印であったらしい竜灯の話は「ワラの大蛇」など)。