ワラの大蛇

東京都江戸川区


雷の浜の祭は四月の大潮の潮の引く日にやった。ぼんげ立てといって、椎の木や樫の木のミオの棒杭(ぼんげ)を海に立てて、海上の目印とした。当日は真蔵院で海上安全を祈った。

昔、真蔵院のお不動さまの前に松の木があり、祭の日には青年団の人たちがワラで作った大蛇を絡ませた。松は竜頭(竜燈)の松といって大きく、浜で仕事をする人たちの目印だった。大蛇は五間もあって、首には木製の宝剣も下げられた。

今は松も枯れてしまったが、大正六年の大津波のときには、松の木の上に光るものがあり、浜にいた人たちに方向を教え救ったという。土地の人は松の大蛇の目が光ったのだといって、毎年ワラの大蛇を作って海上安全を祈った。

『江戸川区の民俗 4 葛西地区の民俗』
(江戸川区教育委員会)より要約

追記

『区史』には、この松について、行徳の塩田に向かう舟が大時化にあった際、松の上の光るものが救けた、それは竜だったという藁の大蛇が作り始められた由来も語られる(「雷不動の大松」)。

別に、昔大津波にあって、海上からこの松に泳ぎ着いて登って助かった大蛇がいたので、それから藁の大蛇を作るようになった、という話もある(「ワラの大蛇のいわれ」)。

いずれにしても、今はない雷(いかづち・地名)の雷不動(波切不動ともいう)の大松、その上の藁蛇が、海浜からの目印であった、という点は共通している。周囲は辻切りの縄を蛇ともする地域だが、それと似てまた少し違う雰囲気があるだろう。

また、葛飾亀有のほうに、大松に登って物見をした蛇が化けた老人の話があるが(「ヘビの物見」)、そこなども雷不動の松と同じような、大木の上の藁蛇の行事があったのじゃないかと思われる。