おりや峠の蛇

山形県東置賜郡高畠町


赤山にいた木挽きが、蝮をとって味噌漬けにし、女房のおりやに、蝮には魔性があるから三年経たないと食えない、と言い置いた。ところがおりやは我慢ならず全部食べてしまい、途端に喉が渇いて仕方なくなった。家の水では足らずに、上山川の水を飲むうち、自分の姿を水鏡に見ると大蛇になっていた。これでは家には帰れぬ、と嘆き、また姿を見せた友達だった娘たちは腰を抜かしてしまい、おりやは山に引っこんでしまった。

ある夕方、長才という盲のあんまが、二井宿から七ヶ宿への途中、三つの宿の分岐点の峠で、得意の琵琶を鳴らし歌っていた。すると大蛇のおりやがきれいな女に化けて、琵琶の音に魅かれて来た。そして、長才に上山三万石泥海にしてすみかにするから、自分と一緒になってくれ、といった。

他言をすれば死ぬ、といわれたが、長才は自分のような片端者は死んでも、上山一町二十ヶ村を救わねば、と踵を返し、楢下村に下って庄屋に告げた。言うか言わぬかのうちに長才は死に、それで話を信じた庄屋と村人は、大蛇が嫌うという鉄の棒を山中に刺して回った。

それで大蛇は七日七夜苦しみ死んだが、そのとき尾で払ってできた沼があり、山奥なのに沼という地名がある。そこでは直径三尺もある大蛇の骨が出るといい、骨継ぎの薬といっている。他にも、大蛇の入った沢を今でも沢(ざわ)というし、どちらの沢に入ろうか迷ったところを「ホッツカ沢」といってもいる。

[web]東北文教大学短期大学部
民話研究センター
民話アーカイブ「佐藤家の昔話(一)」より要約

追記

これは「蛇になったお里乃」の名で知られる、西置賜郡から新潟県の関川村にかけての話が、舞台を変えて語られたものと見える。関川の方には長さ82.8m、重さ2tの世界一の大蛇が出る「大したもん蛇まつり」があって、お里乃の話がネタとなっているが、それそのものの詳細・こちらおりやの話との関係などは今はさて置く。ここでは、「蛇の味噌漬け」が登場する代表的な話として紹介した。

そこはさらにまたの類話に興味深いものがある。多く蛇の味噌漬けの制限は漬ける年数だが、「万人に跨がれないと食えない」という話がある(「おるい峠の大蛇」)。もしかしたら、胞衣の取り扱いと通じるところがあるのじゃないか。併せ参照されたい。

また、おりやの話も典型話というより類話で、友達に見られて云々と辰子姫のようになっている部分もあるが、味噌漬けと別にも少々興味深いところもあるので引いた。おりやが長才に「おらと一緒になて呉(け)ろ」と申し出、その住処として泥海をつくるといっているところだ。

琵琶法師と竜の話には、死んだあんまや法師の体が蛇体化しているような表現が見られることがあるが(「精進ヶ池」など)、こういった筋があった名残かもしれない。多くの話は、お前にだけは教えるから逃げろ、という。