池子の大蛇

神奈川県逗子市


昔の池子は森に囲まれ、多くの池があった。中でも大きな摺鉢池には大蛇がいた。ある秋、薪取りに来た老人が、池のそばの倒木に腰掛け一服すると、その倒木が動き出した。よく見ると硬いこうらと鱗のある大蛇であり、十数メートル先で犬ほどの頭が睨んでいた。

老人は悲鳴を上げ逃げ帰り寝込んでしまった。老人の息子が、父の様子がおかしいとわけを聞くと、その息子も顔色が悪くなり、それから頭がぼけてぼんやり過ごすようになってしまった。皆は大蛇の祟りと畏れ、摺鉢池に弁天を祀ったという。

『三浦半島の民話と伝説』菊池幸彦
(神奈川新聞社)より要約

追記

この話が前半で、後半に池子の勇士が七頭一身の毒大蛇を討伐する話(「六社大明神」)がある(割愛)。話そのものは全国にくまなくあるものだが、話を聞いた息子までおかしくなったというのは珍しいところだろうか。

摺鉢(擂鉢)池はもう埋め立てられないが、池子小学校の北あたりにあったようだ。近くにまた上池があり、浚うと大蛇の頭骨が出たなどという話もある(「池から出てきた大蛇の頭骨」)。