池子の大蛇

原文:神奈川県逗子市


その昔、逗子の池子は森に囲まれておおくの池があちこちにあった。中でも一番大きいのは摺鉢池だった。摺鉢池には大蛇が住んでいた。

ある秋の晴れた日に、一人の老人が池子の谷戸にたきぎ拾いに出かけた。暗い森の中を歩いた老人は杉木立の奥の池のそばで老木に腰をおろし、たばこをいっぷくつけてひと休みした。すると、老木がズズーッと動き出したからびっくり驚いた。よく見ると、倒れていた木とばかり思っていた老木にはかたいこうらがあって、うろこが生えた大蛇の胴体であった。十数メートル先の方には犬ほどの大きさの頭があってこちらをにらんでいた。老人は悲鳴をあげていちもくさんにとんで家に逃げ帰り、雨戸をしめて寝こんでしまった。野らから帰った息子は、父のようすをおかしいと思った。問いつめられた父はふるえながら今日のできごとのいちぶしじゅうを話した。父から大蛇の話を聞いた息子は、急に顔色が青くなり寒けがして熱を出し、その場に伏してしまった。それからの息子は頭がぼけて毎日ぼんやり過すようになってしまった。村人は大蛇のたたりとおそれて摺鉢池に弁天をまつったという。

『三浦半島の民話と伝説』菊池幸彦
(神奈川新聞社)より

追記