奉遷塚と輿道

神奈川県平塚市


相模の古い五社が端午の節句に大磯の神揃山に集まる。この国府祭に東からは一宮寒川神社・四宮前鳥神社の神輿が平塚八幡に来て、東海道の南の道を神揃山に向かう。ところが、その道そばに乱暴で親の八幡の宮から出された若宮という神様の砂山があった。

ある日、若宮が目を覚ますと騒がしく、ちょうど国府祭に行く一宮の神輿が来たところだった。若宮は悪戯してやろうと、近くに棲む蛇どもを集め、一宮の神輿を邪魔するようけしかけた。神輿を担いできた人たちは、蛇の大群に仰天して一目散に逃げてしまった。

続いて来た四宮の神輿も同じ目に会い、一宮と四宮の神は激怒して八幡宮にどなりこんだ。八幡さんは平謝りに謝ると、鉾で砂をすくい、蛇どもに振りまいた。この砂が目に当たる痛さに蛇は散り散りになり、若宮さんも捕えられて、塚の中に押し込まれてしまった。

この塚が奉遷塚で、この道は国府祭に行くお神輿が通る道なので輿道という。その後も、国府祭に行く際、八幡さんは奉遷塚の前で蛇が出ないまじないとして、鉾で三回砂を塚に振りかけるようになったという。(平塚新宿)

『むかしばなし 続・平塚ものがたり』
今泉義廣(稲元屋)より要約

追記

「ホーセン・ホウセン塚(宝泉・鉾前塚)」という塚があったと郷土誌にもあるが、八幡がよけて通り、一宮四宮が砂をかけて通ったともある。いずれにしても、もはや塚はなく、正確な場所も不明だ(若宮は現在平塚八幡内に祀られている)。

神揃山(かみそり山)のある大磯町のほうにも、大蛇となって神輿の渡御を邪魔する神の話があり(「宇賀神社さんの事など」)、さらに神揃山に近い社宮司だったと思われる守公神社にも神輿の渡御を羨んだという話があるが、宇賀神・守公神は、集まる神々(兄弟姉妹)に対し、継子だから羨むのだという。

一方、奉遷塚の若宮は八幡の子とあるが、平塚八幡には国府祭とも関係して、その女神が御子神らしきものを埋けた、という話がある(「国府マチ」)。この二者は比較すべき対象だろう。