森戸を救った八幡様の大蛇の話

神奈川県相模原市緑区


昔、森戸の中野神社のすぐ下に、深い池があり、真中に八幡さまの祠があった。池には大蛇が棲むといわれたが、ある日から真夜中に気味の悪い音が聞こえ、家の周りを何かが擦って歩くような音が聞こえるようになった。それが幾日も続いた時、一人の老人が、あれは八幡さまの池に棲む大蛇だと思い出した。

大蛇は森戸の守り神で、見ると祟りがある、夜は戸を固く閉めて決して見てはならない、と老人はいった。さらに、大蛇が森戸中を暴れる時は、近いうちに何か悪いことが起こるともいった。それで皆は火の始末などに気をつけ、日々を送っていた。

それから間もなく関東大震災が起きた。津久井の村々でも家や崖が崩れ大きな被害が出たが、不思議と森戸の被害は少なかった。これも八幡さまのおかげと、皆はお礼をし、八幡さまの祠を大事にしたという。また、八幡さまの池では、雨乞いも行われたという。

『ふるさとの民話と伝承』
(中野地域振興協議会)より要約

追記

中野神社の下というと北側だろうが、今はもう津久井湖(ダム湖)の湖面が通り二本のむこうに迫っている。おそらく話の八幡の池というのは湖中に没したのだろう。中野神社に上森戸の八幡が合祀されている。

それにしても、池の中島に八幡祠を祀るというのは変わった話だ。間違いなければ、武人に討伐・封じられた大蛇の話などあったのかもしれない(「竜海」など参照)。

もっとも、中野神社も諏訪大明神であり、脇にはまたの伝説を持つ弁天さんの池もあり(「弁天さまにまつわる不思議な話」)と、もとより蛇とは縁の深い森戸ではある。

大異変を知らせた主ということでは、多摩の唐木田ほうから影取り池にからんで語られる大蛇の話に、やはり関東大震災前に動き出したというものがある(「棚原のヌシ」)。