棚原のヌシ

東京都多摩市


棚原の頂上にはお伊勢さんがあったが、その森には蛇のヌシがいた。ヤマッカガシだろうといわれるが、長くはないが胴が太いとも、頭が大きいともいう。この棚原のヌシは影取り池と行ったり来たりして、移動した跡は草がなびいていた。

また、この棚原のヌシが動き出すのが見られると、変事が起こるといわれてきた。日清日露の戦争も、関東大震災の前にも見られた。近くに畑を作った人が見たといったが、そしたら大東亜戦争が始まった。

『多摩市の民俗(口承文芸)』
(多摩市史編集委員会)より要約

追記

五つほど採録されている世間話をまとめた。所は小田急多摩線の唐木田駅のすぐ南側になる。今清掃工場となっている場所が、件の棚原の森であり丘であったらしい。

この話で目を引くのは、その棚原の主が影取り池と行き来していた、というところ。影取り池はほんの3~400mほど大学キャンパス西側にあったというが(大水で決壊し、もうない)、この距離では主が行き来したというよりも同じテリトリーということじゃないかと思う。

多摩の「影取り池」に関しては小山田氏落城の際入水した奥方侍女の残念が脇を通る人の影を取るのだ、という話ではあるのだが、奥方が蛇になった、という風には語られない。藤沢・川崎の影取り池が蛇の池であったのに対し、多摩は蛇じゃないのか、という問題があった。

もっとも、語られる内容そのものは、主がいるということ、その主が見られると変事が起こる、ということに終始している。こういった主は守り神と捉えられることもある(「森戸を救った八幡様の大蛇の話」など)。