お諏訪様の白蛇
神奈川県川崎市多摩区
長沢に資産を失い夜逃げをしようかという夫婦がいた。この夫婦が長年住み慣れた家に別れを告げ、お諏訪様の前までくると、道に白蛇が横たわっていた。避けて通ろうとしても、白蛇が邪魔をするので通れない。
立ちすくむ夫婦はしかし、お諏訪様のお使姫は白蛇だというのを思い出し、これは土地を立退くなとのお告げだと考え引き返したという。それからその夫婦は何を作っても当たって、また先祖の貸金証書が出てきて田地を得、とんとん拍子に家運が開けたという。(『稲毛郷土史』)
『川崎物語集 巻六』川崎の民話調査団
(川崎市市民ミュージアム)より要約
追記
資料状のタイトルは「諏訪社の御神体」なのだが、同名で木月のほうの諏訪社の話(「諏訪社の御神体」)もあるので別の題にした。もっとも全く別の社だが、諏訪の蛇が社を守るべき家を助けたという点では似たところのある話ではある。
川崎市内にも普通に蛇が金運を示す話はあるが(「ピカピカの蛇を見て金が入る」)、これはそれよりも氏子総代の家のその由来というような話なのだと思われる。神社は長沢の鎮守として今も立派にある(長沢郵便局の少し西のほう)。
なお、長沢の諏訪社はお産の神様ともされたそうで、運定めの話もある。竜蛇の話ではないが、運定めの話でも「その寿命が避けられぬもの」と語る話の典型例であるので引いておこう(「子供の寿命」)。
もっとも、竜蛇の話ではないといっても、その子供の運を告げたのが諏訪社なのだから、蛇の告げた運である、とはいえる。結果が水の禍であることからも、それは偶々というのでもないかもしれない。