諏訪社の御神体

神奈川県川崎市中原区


激しい夕立が降り、江戸屋の先祖が諏訪さまを心配して見に行った。案の定矢上川の増水で社は流れる寸前で、先祖は藤づるで社を立木にしばりつけようと走った。しかし、すでに濁流が遮り社は島のようになっており、たどり着くこともできなかったという。

その時、どこからともなく杉丸太が流れてきて橋のようにかかり、先祖はこれを渡って社を縛り付けることができた。また帰る時にこの丸太を渡って、不思議に思って振り向くと、もう丸太は影もなかったという。

先祖は諏訪社のご神体が大蛇であると聞いたことを思い出し、あれがご神体だったのかと合点したそうな。大蛇が助けてくれたのだ。(『木月村覚書』)

『川崎物語集 巻六』川崎の民話調査団
(川崎市市民ミュージアム)より要約

追記

木月地区の話。諏訪社は元住吉駅近くの住吉神社に合祀されもうないが、地区の南東端のほうに木月諏訪公園と見え、おそらくそのあたりに諏訪社があったものと思われる。

丸太橋となって洪水の中人を渡した蛇の話ではあるが、身命を賭して人を救ったという話(「橋になった大蛇」など)とは少し違うだろうか。自らの社を守ろうとした人を手助けした、というニュアンスではある。

ともあれ、水害の多かった土地ゆえに、蛇たちも洪水のときによく活躍する(「毘沙門天の大銀杏」)。その働きが蛇の社祠が信仰されるべき要件であったのだろう。