ヘビの物見

東京都葛飾区


秀吉の小田原北条攻めに際し、家康の家来が高木神社の大松から国府台の北条方の様子を見ようとした。しかし、松があまりに大きく登りあぐねていたところ、白髪の老人が現れ、事の次第を聞くや、自分が登ろうといって、スルスルと大松に登ってしまった。

しばらくして大松から降りてきた老人は、北条方を見た一部始終を詳しく語った。家康の家来は大変喜び、礼を言って来た道を戻ったが、やはり不思議に思って振り向くと、老人の姿はなかった。辺りには人家もなく、畑が広がるばかりで隠れるところもない。

この話が村に広まると、白髪の老人は大松のウロに棲んでいる白蛇が化けたものだろうと噂され、言い伝えられた。白髪の老人は、土地に変わったことが起こるたびに現れ、皆を助けたという。

『葛飾の昔ばなし』
(葛飾昔ばなし研究会)より要約

追記

西亀有、かつて砂原村といった土地の鎮守の高木神社が舞台。類話に内容の異同があり、『葛飾のむかし話』(葛飾区児童館職員研究会)では、後北条が国府台の里見氏を攻める際に、という背景となっている。国府台の合戦に際して、というならそのほうがわかり易い話だろう。

しかし、高木神社は里見氏の遺臣・武内氏が当地に移り住んで祀った第六天であったといわれる社であり、その社の白蛇がどちらの味方をするのかというならば、引いた話のほうが筋が通っているだろう。

ともあれ、蛇が物見をするという珍しい話ではある(ちなみに伝の大松は昭和十八年に枯れてしまったが、樹齢八百年超であったという)。にわかには似た話が思い浮かばないが、視点を逆にするとどうか、というのはある。

大松に竜蛇が乗っている状況というなら、竜燈の松というのは大概そういうものであり、その「松(とその上の竜蛇)が目印であった」という話として、江戸川区葛西の方に下って真蔵院の松にそういう話がある(「ワラの大蛇」)。