橋と大蛇

福島県岩瀬郡鏡石町


高久田の鹿島神社と高久田館との間に、高久田より須賀川の東の川に通ずる用水堀がある。堀の幅も広い。ある日農夫がここを通りかかると橋が架けてある。おやいつも橋がないのに、いつ出来たのかと思い、橋に腰かけ煙草を一服すいはじめた、すい終わって煙管をとんとんと橋げたにたたいた。ところが橋がむくむくと動きだした。あわてて橋から道によけると何と橋と思ったのは、一かかえもある大蛇で、堀を橋の様に渡ってねていたのであった、そこに煙草のやにを皮に叩きつけられたので、蛇が驚いて動き出したのであった。その農夫は驚いて一散に家に逃げて帰ったという。

(高久田 渡辺勇作)

『鏡石町史 第四巻 民俗編』(鏡石町)より

追記

鏡石鹿島神社あたりの話。見慣れぬ橋と思ったら大蛇だった、という話はあちこちにあるが、こうしてただ驚いて幕、という筋がニュートラルで世間話としてよくあるものだろうか(より世間話的なものは「蛇の橋」など)。

伝説としては、一方でこの結果渡ろうとした人は蛇に障られ病み、死んでしまうなどとなる展開が多いだろうか(「若宮八幡の大蛇」など)。古木と思って腰掛けたら大蛇だった、という話の展開と大差ない。

一方で、人々を大水などから救うために大蛇が橋となるような話があるが、これはもう伝説だろう(「橋になった大蛇」など)。この筋は、その大蛇が土地の信仰と結びついていないと成り難いように思う。