蛇の橋

東京都多摩市


田んぼの畦道に、昔は栗か何かのノロ、二本か三本渡した橋があった。行くときは二本だったのに、帰りには三本あると思ったら、一本は蛇だったなんて、そんな話も聞かされたけどね。(男・大正生まれ)

『多摩市の民俗 口承文芸』
多摩市史編集委員会(多摩市)より

追記

おなじみの丸太・橋と思ったら蛇だった、という話。ここではその丸太(雑木か)を「のろ」といっている点に注目したい。はたして一般に、あるいは方言でそういうものなのかどうか知らないのだが、話の筋からいってそうであるのは間違いないだろう。

そこに、時折蛇の名に「のろ」が使われるところとあわせ見ておきたいのだ。たとえば息子として育てられた蛇・のろの残した珠が奪われ、犬のおんごろと猫のねんごろが取り返しに行く、などという昔話がある。普通これは蛇は這うのでのろいから「のろ」なのだと了解されるが、それだけでもないのかもしれない。

無論直ちにだから丸太が蛇になる話が枚挙にいとまなくある理由がこれということはないが、そういう連想が働いている可能性もあるかもしれない、くらいには思っておきたい。ただの丸太でなく橋材という点も見逃せないだろうか。橋になる話は「浅間山の大蛇」など。