若宮八幡の大蛇

福島県喜多方市


昔、ある男が長尾村の自分の家に帰ろうと、村の南にある若宮八幡宮の前の堀にかかっている丸木橋を渡った。渡り終えた時、橋がぐらっと動いたので、後ろを振り返って見ると、丸木橋と思って渡ったのは、若宮八幡宮を七回り半も巻いた大蛇の尾であった。

男は腰を抜かさんばかりに驚き、さらに大蛇の毒にあてられて目もよく見えなくなり、ようやく家にたどり着いたが、間もなく息をひきとってしまった。

若宮八幡宮は、大蛇の死骸の上に建っているといい伝えられている(『喜多方の民話と伝説)

(豊川町長尾)

『喜多方市史 第9巻 各論編 2 民俗』
喜多方市史編纂委員会(喜多方市)より

追記

田中の塚森、あるいは円墳、塚などの上に神社があり、その社地そのものが蛇のとぐろと見立てられている話。そもそもは円錐型の山がそう見られたのじゃないかと吉野裕子は指摘した。

八幡を竜蛇ということはあまりないが、武家の大蛇討伐伝承に由来して、大蛇の死骸などを葬った地に武家の守護である八幡を勧請した、という筋はある(「竜海」など)。ここも「死骸の上に建っている」というあたり、その色合いがあるだろうか。

また、これは蛇の橋の話でもあるが、渡った人は死んでいる。蛇の橋というのも、ただ驚かされた(「橋と大蛇」など)というものから、それで人を救ってくれるものまで幅広くある。その違いがどこから出るのかというのは考えどころだろう。