立科山中に二つ並んだ双子池がある。昔、切原村の上小田切に大尽があり、十三になる美少年がいた。蛇の絵を描くのが好きで、寺子屋でも「双子池の主になる」といっては蛇の絵ばかり描いていた。その少年の姿が、ある日急に見えなくなった。
家人が探し回った末、もしやと双子池へ行くと、雪駄が脱ぎ捨てられていた。最後にもう一度姿を見せてくれ、と願うと、水面が泡だって笑顔の少年が現れた。もう一度願うと、渋面を作って現れた。そして三度願うと、黒雲を巻き起こして大蛇の姿で現れた。少年は望み通り池の主となったのだ。
それから、家人が願い事を紙に書いて池に投げ入れると、何でも叶えてくれたが、約束を違えてからは聞かれなくなってしまったという。また、この家では以来十二で元服を行うようになったそうな。