浅生のつぶら池

富山県中新川郡上市町


母親が乳のみ児をつぶらに入れて、奥山に山菜を採りに行った。ある日、見知らぬ女がじっとつぶらの児を見ていたが、たちまち蛇(じゃ)となり、つぶらもろともぐるぐる巻きにして、池の中に潜り込んでしまった。水の上には六本の藁屑だけが浮いたという。

この藁の上に葦が生い茂って浮島になった。付近の人たちはこの浮島の漂い方によって天気を占う。雨の日には母は雨のあたらぬ北東の山へ、晴れた日にはしめった南西へ山菜採りに行っていた。浮島は今でも母を慕って天気によってそのように追い流れるのだという。

『上市町誌』上市町誌編纂委員会
(上市町)より要約

追記

このつぶら池の近くにはより大きな釜池・鎌池という池があるそうで、そちらには人の男の吹く笛にさそわれ昇天を予告する女大蛇の伝説がある。赤児を引いた大蛇と同じということかもしれない。しかし、その辺りの連絡のことはさておく。

ここで注目したいのは「つぶら」のところだ。つぶらとは藁などで作る大きな籠状の赤ちゃんを入れておく保育器のことで、えじこ・えじめ・いづみ・こしき……等々、土地によって呼び名は様々である。中で、つぶら・つぐらというところがある。現代では猫を入れる「猫ちぐら」がこの末といえるので、「ちぐら」も近い語だろう。

この話では赤ちゃんをつぶらごと大蛇が「ぐるぐる巻き」にしているのであり、そもそもつぶらに蛇のとぐろのイメージがあったことをいっているのじゃないか、と思わせる描写がされているのだから要注目だ。

そして、繋がる可能性にはその名もある。まず、こしき(甑か)と呼ぶ地方があるということ。蛇の群れがとぐろを巻いてだまになっているのを蛇こしきといい、見ると幸運を得るなどという(「へーびこしき」など)。

また、つぐらと呼ぶ地方もあるが、蛇のとぐろのことを「つぐろ」という所があるようだ(「蛇ぶち」)。そちらでもえじこは蛇のとぐろとの名の連絡を見せている。イメージにも繋がりがあった可能性はあるだろう。