へーびこしき

東京都狛江市


ヘービコシキはヤマッカガシなどが寄り集まってとぐろを巻き、そろって頭を持ち上げているもので、とてもきれいなものだった。見るといいことがあるとか、そういうものが出来ているとその家にはいいことがあるとかいった。

こしき(甑)は米などを蒸す用具のことで、そのようにとぐろを巻いた形なのでそういう。松浦静山『甲子夜話』や滝沢馬琴『兎園小説外集』などにも記されている。蛇こしきの中にかんざしを入れてやるといいことがあるなどともいった。

『狛江・今はむかし』井上孝・中島恵子
(広報「こまえ」1000号発行記念事業実行委員会)より要約

追記

資料は「蛇こしき」のタイトル。蛇の甑の話の元来は、その甑となった蛇の群れの中に宝珠があり、それを手に入れると福を得る、というようなものなのだと思うが、多摩川周辺ではこのように、ひとまずそれを目にすることがあれば福を得る、という話になっている。

かんざしを入れるといいことがある、というのはおそらく調布のほうで紹介されている事例のことだと思う(「蛇こしき」・編者が同じく中島)。面白い発想だが、蛇の甑に何かを与える、というのはあまり見ないものなので、調布のその話に独特なものだと思われる。

また、青梅のほうまで行くと「甑」という意味合いが忘れられて、「こひきヘビ」という名で語られるようにもなっている。わりとわずかな時間・距離でそういう違いが生まれていくのだ、ということを見るにはよい例かもしれない。

しかし、松浦静山が紹介している話は小石川のこととしてで、とくに狛江や調布が近いというわけでもないのだが、なぜこの多摩川方にこういう話がよく残っていたのだろう。