入道淵のクモの話

神奈川県足柄下郡箱根町


昔、大平台の炭焼の若者が早川の谷あいの入道淵で釣りをしていると、一匹のクモが下りてきて、若者の足の親指に止まった。軽くつまんで傍らの木の枝に乗せると、クモは木の幹に糸を巻き付け、長く糸を引きながら向山の方へ消えた。

クモが見えてしばらくした時、突如大音響とと共に、クモの糸の巻かれた樹木が根こそぎ抜き取られ、空中高く舞い上がっていった。若者は腰を抜かさんばかりに驚き、這々の体で村へ逃げ帰ったそうな。(辻満定良氏談)

『箱根昔がたり II』安藤正平・澤田安蔵
(かなしん出版)より要約

追記

各地で語られる蜘蛛ヶ淵の話だが、箱根ということもあり、相模の他所の話よりも、伊豆の方の話と並べ見るのが良いだろうか。三島にも「蜘蛛が淵」の話がある。

入道淵というのは不明。南の尾根を越えて須雲川側に向山の名はある。蜘蛛ヶ淵の話は、谷の地崩れなどを語ったものだ、という説もある。大平台の辺りで早川に下りるというのも中々に大変な渓谷だが、うってつけの舞台ではある。