仙人台の大蛇

神奈川県足柄下郡箱根町


昔村の豆腐屋にトラというおばあさんがいて、午後には大豆を煮る薪を取りに山へ入るなどしていた。ある夏、おばあさんはあまり村の人が入らない仙人台の奥山に入り、枯れ枝を集めて回り、さて帰ろうと太い松の木が横たわっているのに足を掛けた。

ところが、松の木はゴムのような弾力があり、変だと思うと動き出したのだった。おばあさんが驚いて先に目をやると、二間ほど先に大蛇が鎌首をもたげていた。おばあさんは無我夢中で転がるように逃げ下り、通りかかったゴミ屋のおじさんに背負われて家に戻った。

おばあさんはそれからしばらく寝たきりになってしまったそうな。その話を聞いた村人は、尾平台の大蛇は死んだというが、その子か孫が棲んでいるのだと噂し、仙人台の奥に近寄るものはなくなったという。(安藤エイ氏談)

『箱根昔がたり II』安藤正平・澤田安蔵
(かなしん出版)より要約

追記

仙人台は大平台から宮ノ下へ登る途中、ちょうど件の「尾平台の大蛇」が死んだという伝説(「蛇骨と大平台の名の起こり」)のある蛇骨川の左岸上方になる。今でも、西側の浅間山に至るまで家もなにもない山森だ。

話自体は倒木と思ったら大蛇だったという定番のものだが、地名の由来伝説の大蛇の子孫という印象を持たれているところが面白い。また、一連の大蛇伝説が浅間山の名の下に語られているところも留意しておきたい。