蛇の住る話

神奈川県足柄下郡箱根町


この湖には蛇が住む。今も土地のものはそういうようで、毎年六月十三日丑の刻に湖岸の護摩壇にて金剛院の修験者延命院という山伏が修行して赤飯三升三合三勺三才を櫃に入れ、舟に乗って沖の護摩壇という湖中の大石へ漕いで行き、赤飯を湖中に投げ入れ、後ろを顧みずに漕ぎ帰る。

これは、湖中に大蛇が住み、往古は小児を一人ずつ喰っていたのを赤飯に代えたのだという。昔は赤飯を三斗三升三合三勺三才投げ入れたが、三斗を減らしたそうな。赤飯を納めた櫃は浮き出ることがないという。

(「筥根七湯志」より)

『箱根神社大系 上巻』箱根神社社務所
(名著出版)より要約

追記

箱根芦ノ湖には万巻上人が鎮め湖中の大木に繋いだ九頭龍がいると語られるが(「九頭龍」)、箱根神社の行う特殊神事・湖水祭の由来が引いたように語られる。

毒龍の調伏が語られる縁起そのものには、この模様はないのだが(「箱根山縁起(部分)」)、いつかの段階で結びついていったのだろう。

しかし、問題となるのは、毒龍は湖底に繋がれ守護の九頭龍神となったわけだが、その後に人身御供ないしその代わりの奉納を要求したのか、それともあくまでそれは調伏される前の故事の名残ということなのか、だ。箱根九頭龍の性質というのもなかなかに判然としない。