箱根山縁起(部分)

神奈川県足柄下郡箱根町


湖水の西の汀に九頭の毒龍がおり、雲を引き波を起して人々を苦しめた。その頃瑞夢を得て箱根を開こうとしていた万巻上人は、衆生を救おうと深潭に臨んで石台を築いて祈誓した。

すると、毒龍は降伏して、形を改め、宝珠と錫杖及び水瓶を捧げた。上人は鉄鎖を呪して毒龍を大木に繋いだ。この木を栴檀伽羅木(せんだんきゃらぼく)といい、今も湖中にある。

(「筥根山縁起幷序」・「箱根山略縁起」より部分)

『箱根神社大系 上巻』箱根神社社務所
(名著出版)より要約

追記

箱根芦ノ湖の九頭龍の話は、このように縁起に見えるもの。とはいえ、前後に関係する文脈はないので、該当する部分だけを引いた。より物語化した絵巻の縁起では、神となる父娘姉妹たちを追ってきた継母の大蛇がこの毒龍に結び付けられる。

万巻上人が毒龍を鎮め繋いだ、ということは現在でも同じように語られ、九頭龍神社の由来とされるのだが、さらに赤飯の湖中への奉納を行う湖中祭の由来であることも加味されていく(「九頭龍」)。