七滝の主

神奈川県足柄上郡大井町


中村川を遡ると大井町の高尾集落になり、さらに山奥に遡ると棚沢という人家もない土地になり、大小七つの滝がある。今から六〜七百年昔、栄左衛門という木こりが、七滝の森の木を伐りに来た。ひと仕事終えて喉が渇いたので滝壺に下りると小さなヘビがいた。

栄左衛門はちょっと悪戯してやろうと小ヘビの頭を木の枝で叩いた。すると、小ヘビが少し大きくなったような気がした。不思議に思ってまた叩くと、確かに大きくなっていく。どうなるのかと栄左衛門が叩き続けると、遂に小ヘビは太さが一升瓶ほどもある大蛇になった。

そして、大蛇は鎌首を持ち上げると、栄左衛門めがけて炎を吹きかけてきた。栄左衛門は腰を抜かしそうになりながら、まっ青になって家に逃げ帰り、その後一か月も寝込んだという。村人はそれは七滝の主だろうと噂し、今でも七滝には近寄らない。(『大井昔ばなし』昭和五十六年 大井町教育委員会)

『大井町史 別編 民俗』大井町町史編さん室
(大井町)より要約

追記

小蛇と思ってちょっかいを出しているうちに大蛇に変ずるという、村里でよく語られた話の典型。竜というのは普段は小蛇に化けているのだ、と説明されることもある(「宮内山大蛇」など)。

足指などに小蛇が噛み付いてきたので切り捨て、後日またそこに行くと大蛇の白骨があった、などという展開もあって、主の消滅(その水場の消滅)を示すこともよくある話ではあるが、高尾の七滝は健在なので、そういう話でもないようだ。