大蛇のいる池

神奈川県中郡大磯町


大蛇のいる池:あすこだあ、昔は、大蛇を見たという人はいくたりか聞いたけんどね。よく、山の下だなあ、今、公園(川尻)になってるところの東の土手下、あすこが昔、ヨシハラだったんだ。あすこにでっかい池、早くいえば水ったまりだね。いいかげんに大きい池の形で、ぐるりがヨシハラだったんだよ。川が流れていてオンドマリになってたから。そこに大蛇がいる、大蛇がいる。わたしは見たことなかったんだけんど、相当大きいらしいだね。大正時代だね、いくたりか、おれも見た、おれも見たって。あすこには、ふてえ(太い)のがいんから気をつけろって。(本郷、明治四十一年生、男性)

大蛇を見て気を失う:今の川尻広場になっているところは、昔はヨシの林だったんですよ。そこで実際に見たっていう、見て気を失ったっていう人がいたそうですよ。大蛇のようなのを見てね。(本郷、大正四年生、男性)

『国府の民俗(三)』(大磯町)より

追記

川尻公園は、不動川の河口近くになる。西から流れてくる葛川が合流する屈曲が川尻だ。左岸公園側も、もう少し海の方へ行くと、(よしではないが)まだ鬱蒼としている。そこに大蛇がいた、というほどの話だが、これが周辺のどこかにつながる印象のあったものかどうか、というところは気になる。

右岸西側はゴーカート場があって、さらにプリンスホテルがそびえるが、ホテルの敷地内にお諏訪さんがある。かつて漁師たちが見当としたという「シャチガミ」の松があった。お諏訪さんでは直接竜蛇の話は聞かないが、シャチガミとは大磯の竜宮さんの神体の名であり、川尻からすぐ近くではある。

また、大蛇がいたという左岸東側は、隣に吉田茂邸があるが、さらに東に行くとそう遠くなく滄浪閣があって、宇賀神さんがある。あの、国府祭の神輿を大蛇となって邪魔したという宇賀神さんだ(「宇賀神社さんの事など」)。これらどちらかと繋がるイメージがある話だったとしたら、思い起こさねばならない場所になるといえる。