龍の夢

神奈川県綾瀬市


庭の柿の木に龍がふたぁつ降りる夢を見て。首を立てて両手を出して、ふざけてるのだか、すごくきれいで。みんな見ろや、と家の者を呼んでいるところで目が覚めた。

終戦の時分か、青大将が二匹出てきて、逃げようとしてひっくり返った自分のお腹の上を這って行った夢も見た。蛇のあったかみでお腹のところが暖かかった。蛇たちは大きな麦藁のツクテに潜っていった。また、座敷に大きな蛇がとぐろ巻いている夢なども見た。

それで、あるとき厚木の岡田のみる人に家をみてもらう機会があったのだが、夢のことを話すと、遠い龍がよく出る国、インドの白龍が飛んできて、家の木に休んだのだ、といわれた。そして、雨露しのぐだけでよいから家を作ってくれ、といわれた。

入口を長くして高い所に祀ってくれとか、法華に祀ってくれとかもいわれ、名は大善神弁財天といわれ、みなそのようにして祠を作った。二月一日を命日にして毎年祭ったが、末代まで家が栄えるといわれたとおり、悪いこともなく三〇年以上経つ。(女 明治三十七年生)

『吉岡の民俗』(綾瀬市)より要約

追記

吉岡地区のあるお宅に、このような弁天さんが祀られたのだという。水難で家の者が亡くなったり、あるいは蛇聟の伝説があって先祖の娘が去っていたり(「不動沢の弁天」など)と、なんらかの欠亡があって祀られることの多い弁天だが、上の話はそういうのでもない。

水にまつわるというのでもなく、家の主というのとも違う。かつて近代の日本の巫女たちを追ったC・ブラッカーは、「いちこ」のような口寄せする巫女が最も多く指示を受けるのは蛇だった、と述べている(『あずさ弓』)。そういう側面がよく表れた話かもしれない。