浦山の竜蛇

神奈川県南足柄市


昭和二十年ごろのこと。日支事勃発後で、外国から木材輸入が途絶し、道了山の杉の大木が求められた。それで買主と主任と地元の人三名が浦山の奥を実地踏査した。

そのとき、三人の前二メートル足らずのところを、胴回り三尺、鱗の直径は一寸、長さは八尺ほどの真っ黒な大蛇のようなものが横切った。二本の大きな黒い髭をはやして、絵に描かれた龍の前足二本だけがなきもので、王者の貫禄を示して、悠然と通過した。

下木は巾三尺に押し分けられ道のようになった。これを見た地元の人は、三人いたので良かったが、一人であったら悲鳴を上げ、おっけやみ病にとりつかれたかも知れない、と当時を思い浮かべ語った。(大滝正「郷土の伝承大蛇物語」より部分)

『史談足柄 第13集』(足柄史談会)より要約

追記

元稿は、南足柄市の竜蛇討伐伝説「長泉院来由記」に触発され、本当にそのような竜蛇がいたものかと土地の話を集めてこられた方の手記から。いくつかの話があるが、それぞれに引いた。

別の近くの話としては、やはり木材の供出に関して大蛇が現れたというものもある(「天狗の木の大蛇」)。そちらは大木を伐る際の様子なども描かれていて興味深い。

ところで、こちら浦山のほうは、ただ大きい蛇というのではなく、竜のような容姿をしていたと語られているところが目を引く。場所は今の関本駅付近なので、今はもうそのような怪が出るようなところには思えないが。