石田の島田松

神奈川県伊勢原市


平塚のほうから見ると島田を結ってるように見える大松があり、根元から木のまたまで二五間ぐらいの高さがあった。桑畑に硫黄が降ったと大騒ぎになったが、島田松の花粉だった、ということもあった。

その頃、松の木の上に大蛇か何かが化けて出る、上にけむが出てるという大騒ぎもあった。けむが六尺か九尺くらいに黒くもくもく出て動く。それは、望遠鏡で見たらぶゆ(ブヨ)のかたまりだった。

『伊勢原の民俗 成瀬地区』
伊勢原市史編集委員会(伊勢原市)より要約

追記

平塚の低地側から見ると、愛甲石田駅のあるほうへ向けて高台となっている地形で、その上の子安神社に松はあったという(現在子安神社にある子安の松の根株のことか)。

騒がれた煙は、ブユの蚊柱のようなものなのだろうが、それが正体だったという大蛇の話というのは珍しい。もっとも、珍しいといってもそれだけならそれだけの話なのだが、少々気になる点がある。

大山の頂上に、霧をまとい一年中雫の垂れている「うもうぼく」があった、という話があるのだが、石田の島田松には似た感じがしないか、と少し思う。同様の木の話は清川村のほうにもある。

また、島田結のように見えたということだが、島田結はそもそも蛇を象ったものではなかったか、と睨んだのは吉野裕子だった。これも、しかとそういえる話がなかなかないのだが、ブユ柱騒動以前に島田松が蛇の松だという印象を持っていたなら、可能性が出てくる。このあたりは気にしておきたい。