コダカネ

神奈川県秦野市


秦野から中井町に入り、コダカネという所があるという。昔、コダカネの近くの村から秦野に来たお嫁さんがおり、身重になっていよいよ産み月となって、お姑さんに連れられて里帰りした。

ところが、コダカネまで来たところで、お嫁さんは産気づいてしまい、うずくまってしまった。お姑さんは驚いて、お袋さんを呼んでくるから、決してここを動かないように、と何度も念を押して、お嫁さんの実家へ急いだ。

そしてしばらくして、お姑さんとお袋さんが慌てて駆け戻ったところ、お嫁さんの姿はなく、二人はガクガクとひざまづいてしまったそうな。実は、このあたりには大蛇がいて、お嫁さんと生まれた子どももろともに呑んでしまったのだという。その、子が抱けなかった話がコダカネの名となったのではないか。

『丹沢山麓 秦野の民話 下巻』岩田達治
(秦野市教育委員会)より要約

追記

原話では続いて蛇女房の話が語られるが、そちらは土地の話というのでも、上の話に関係するともいえないので割愛する。こだかね、という地名は不明。秦野から中井の井ノ口へ向かう道すがらだろうから、いまの東名インターあたりだろうか。

中井にはまた五分一のほうに、娘を呑もうとした大蛇の話があるが(「お神酒松」)、また別だろうか。そちらも二宮町との境に語られる話なので、中井境には大蛇の話が出やすいのではある。

話の内容は、大蛇に呑まれてしまった、というほどのもので、それ以上どうということもないのだが(実は大蛇は目撃されていない、という点は注意だが)、一点だけ気にしておきたいところはある。身重のお嫁さんが呑まれているところだ。

これがコダカネ(実際は小高根などだろう)の名を語るためだけの構成なのか、身重の母子が呑まれることそのものに大きな意味のあった話なのか。ただ人が大蛇に呑まれるだけ、という話もあちこちにあるが、人が身重であった、と語るケースは記憶にない。